カルダーラ作曲 オラトリオ

『キリスト足下のマグダラのマリア』

台本:ロドヴィーチ・フォルニ


Antonio CALDARA1670-1736"Maddalena ai piedi di Cristo"

Libretto da Lodovici Forni


NAXOS MUSIC LIBRARY


第1部
 
Sinfonia
 
Aria 地上の愛
 
いざ眠りたまえ、幾千もの心地よき夢想が、
  悦びに充る無為と休息をもたらさん。
 
Recitativo 地上の愛
 
かくて心は四肢を伸ばし、愉しき夢の気晴らしに遊ぶ。
 
Aria 地上の愛
 
優しく舞うがよし、淫らなる愛欲の天使よ。
そなたの翼の軽やかなるに任せ!
  喜ばしき、夢をこそ妨げること勿れ。
  天上の、愛こそは幻想なりき。
 
Recitativo 天上の愛
 
故にこそ!人を惑わす幻想こそ断ち切られねばならぬ。
 
地上の愛
 
何ゆえ、お前はこの眠りを妨げることにそこまで執念を燃やすのか。
眠りこそ、久しく私の支配のもとにあったというのに?
 
天上の愛
 
魂は永遠のものではない。光無き闇の暗愚は、終末と危地への道を指し示す。
 
Aria 天上の愛
 
真実が魂を導きしとき、そは御神の胸にて目覚むるなり。
  いと気高き勇気よ、邪なる甘き誘いによりても、汝は再び眠ることあらじ。
 
Recitativo 天上の愛
 
かくして、その身を捕縛していた罪の足枷より自由となり、
地上の快楽のもたらす不実なる誘惑から解き放たれる。
そうであろう、マグダレーナよ。
 
地上の愛
 
さてもとんだお笑い草だ。勝利をおさめてもいないのに、勝ち鬨を上げるとは。
ここに強大な敵がいるのだぞ。
 
天上の愛
 
だがお前のその強さは俗欲にまみれた穢れたものだ。
 
地上の愛
 
ならばいざ闘いへ。
 
天上の愛・地上の愛
 
いざ、試練の道へ!
マグダレーナ、汝の心よ。
 
Duo 天上の愛・地上の愛
 
(天上の愛)神の愛の勝利を目指すのだ!
(地上の愛)情念の愛の勝利をこそ勝ち取れ!
 
Recitativo マグダレーナ
 
ああ、やっかいなものが私の眠りを妨げてしまった。安逸の腕の中へと戻れぬなら、
せめて暫しの休息を楽しみましょうか。でも、その結果、平穏ではなく途方も無い痛みに苛まれてしまったらどうしよう?
しかし神よ、あなたに従う者として、野蛮な争いと、激しい葛藤、そして穴の開いたような心のままの自分で良いのか、
ああ、私は決心がつかないのです。

私の中には二人のマグダレーナがいるのです。一人ではなく、二人の私が。
私は正しきみ光によってこそ輝く道を歩みたい。
ですが一方で、それがかりそめの明かりのようなものであっても、快楽にもまた心惹かれるのです。
同じ理由で、愛し、そして退ける。
乱れた私の心。その激しさの中で、安息の希望を失いかけています。
 
Aria マグダレーナ
 
我が心は岐路に立てり。
神の国と俗世の界と、即ちいずれの道をば行くべきなるや。
  ひとつは薔薇の花弁に飾られし道。ふたつは茨の這いし道。
  さてはいずれの道をば行くべきやと。
 
Recitativo 天上の愛
 
マグダレーナよ、しっかりと天国を見つめよ。さすれば、汝が己の運命の支配者であることを覚るであろう。
神の愛以外のものは、お前を遠く離れるであろう。

そして、汝が神に忠実であれば、いかなる運命であろうと、あるいは金剛石の楔を以ってしてでも、
汝の心を苦悶に留め置くことは出来ぬのだ。
 
Aria 天上の愛
 
望みを持ちて、汝をば励まさん。
汝は運命に打ち克てばなり。
  よしこの大宇に悪が満ちようとも、
  思慮の遍くにゆきわたるなり。
 
Recitativo 地上の愛
 
難きことには、平和の代償としてお前は自らと闘い続けねばならぬ。
その闘いは永遠に続き、その結果とて不確かなものだ。
来るがよい、そして、刻々と過ぎ去るこの瞬間ではなく、お前の記憶に刻印された快楽を呼び覚まし、
この人生を再び生きるのだ。
さあ、汝が快楽に付き従うが良かろう。
己の天然の資質に従順にならなければ、決して満たされることはないのだから。
 
Aria 地上の愛
 
汝が頬のうてなに美神の舞いし時、
さざめきわたる笑いと歓喜をこそ知るべし。
  やがて虚しく老衰の時は来たり、
  数多の愉しき業は色褪せぬ。
 
Recitativo マルタ
 
妹よ、あなたの心を、勇気を以って天国へと向けなさい。
王の中の王である救い主のみ力を見失っては、たいへんなことになりましょう。
徳の報いとして、天国の門は開かれているのです。
 
マグダレーナ
 
姉上様、私は聖なるみ霊のみ光を感じています。
しかし背徳の世界から執拗な暗雲がやってきて、その輝きを鈍らせようとするのです。
 
マルタ
 
天に乞い願なさい。嵐の中を無事に港に至り着けますようにと。
み光に求めるのです。慎ましやかに、望み、そして祈りなさい。
 
マグダレーナ
 
でも、もしも我が罪が忘却の水の流れを以って、
その祈りと望みを浚ってしまったらどうしましょう。
 
マルタ
 
悔悛が真実のものであるならば、許されるのです。
 
マグダレーナ
 
ああ、神よ!
 
マルタ
 
何をそんなに恐れ、慄いているのです?
 
マグダレーナ
 
私はあまりにも罪深い者なのです。
数多の悪しき行いと、その罪過の放つ悪臭とが、天国からは浅ましいものと映ることでしょう。
恥ずかしさゆえに、許しを乞うことすら出来ません。こんな取るに足らぬ悔悛など、その名に値するものではありません。
 
Aria マルタ
 
天の国はまことの涙を拒まじ。
真実の嘆きこそ、受け容らるべきものなり。
  いかに高貴な犠牲なれども、
  汝の涙に勝るものなし。
 
Recitativo マルタ
 
今こそ、その執われを捨てるのです。一見尤ものようであるにしても、結局あなたの我執なのですから。
もうこれ以上、永遠なる御心があなたに授けようとされている恩恵を拒もうとしてはなりません。
ナザレ人イエスの名声が、その偉大な奇跡と共に人々に知れ渡り、今や人々の救いの時が、偉大なる時がめぐり来ているのです。
すぐに馳せ参じ、イエスに跪き、己の罪を懺悔しなさい。
そうすれば、涙とともにあなたの心は安心を得るでしょう。
 
Aria マグダレーナ
 
無益なる虚飾も見栄も、はや我が心を去り、
更に我をば悩ますことなし。
  いまぞ地に落つべし、汝ら
  恥ずべき罪の影ども。
 
Recitativo マグダレーナ
 
この金髪も空しくほどけ、ばらばらとなって風の餌食になっている。
ああ、彗星の如き光が私を照らし出します。そのみ光こそ、私の淫らなる心の死を予言することでしょう。
 
地上の愛
 
マグダレーナよ、どうしたと言うのだ。何ゆえに血迷う。とくと考えよ。
美しき時を惨めに過ごすことになるのを。突然の嵐に奪われようとしている青春を。
お前は、自分のその美しく豊かな肉体が、そんなちっぽけな価値しか持っていないと考えているのか。
それこそが天国からの賜物ではないのか。それを見下そうというのか。
正気に戻るのだ!愛することの喜悦を取り戻すのだ!
 
天上の愛
 
マグダレーナよ、そのような甘言が何を意味するか、既に判っていよう。
それは束の間の悦びでしかなく、やがては沈み行く太陽のように、影の中に没し去るのだ。
 
地上の愛
 
みんな嘘っぱちだ。
 
天上の愛
 
天は嘘など言わぬ。
 
地上の愛
 
偽りの希望に過ぎぬ。どこまで人を惑わす気なのか。
 
天上の愛
 
地上の悦びは、ただ一時の瞬きに過ぎぬ。真実の中の愛こそ永遠なのだ。
 
マグダレーナ
 
荒れ狂う嵐のなかで、私の魂よ、どうすればよいのか?
 
地上の愛
 
地上の世界の麗しさよ!
 
天上の愛
 
神の国こそが永遠なのだ。
 
地上の愛
 
さあ、楽しむが良い。
 
天上の愛
 
泡沫の快楽を。
 
地上の愛
 
快楽こそ確かなるもの。
 
天上の愛
 
神の罰こそ確かなるもの。
 
地上の愛
 
この臆病者!
 
天上の愛
 
諸悪の源!
 
Aria 地上の愛
 
汝の行かんとするは、痛苦への途。
 いざ駆け抜くべし、忌まわしき岩をば毀ち、鉄鎖を振り解きて。
 
Aria 天上の愛
神の国への道は、即ち無上の歓びとともにあり。
 すべての苦より解き放たれて、御神にまみえるを喜べ。
 
Recitativo マグダレーナ
 
勇気を出さなければ。私の心は決まりました。我が心を覆っていた偽りのベールが剥がされ、
真実の智恵の声を聞くことが出来たからです。あなたの忠告に従い、破滅の欲楽から逃れ、
より良き結果へ、まことなる神のみもとへと向かうのです。
 
Aria マグダレーナ
 
快楽の輩どもよ、
汝は最早や我を繋ぎ留め能わじ。
  その欲楽こそは、
  我が胸に痛みをば呼び込まん。
 
Recitativo マルタ
 
あなたの高貴なる魂は幸いなる決断を下し、あなたを良き道へと導きました。
さあ、奇跡の人、ナザレのイエスのもとへと急ぎ、その教えを聞き、その方の聖なるみ後に続くのです。
そして、決して離れてはいけません。どこまでも従ってゆくのです。
その方こそ、天国への道を指し示してくださるのですから。
 
Aria マルタ
 
今ぞ行き、走り、はた飛ぶべし。
天に顕れ出でし神々しき光こそ、我が道なり。
 己をば、いざ励まさん、
 キリストこそ、真実の極みなればなり。
 
Recitativo マグダレーナ
 
姉上様、私は心に誓いましょう。
私は自らの心に、神様の恩寵が兆すのをはっきりと感じました。
私はイエス・キリストの御許へと参り、天国へとお導き頂くのです。
 
Aria マグダレーナ
 
しばし泣かせたまえ、
我が心の迷いの解き放ちたまえるまで。
  希望と祈りに満たされし、この魂のため息をば、
  ただ天は受け止めたまわん。
 
Recitativo 天上の愛
 
地上の愛よ、お前の意図に逆らって、マグダレーナは悔悛するであろう。
 
地上の愛 
 
良かろうとも。しかし我が俗欲は何よりも強いのだ。容赦なき戦いの準備は万端だぞ。
 
天上の愛
 
徳こそが、心を俗欲から堅固に護るのだ。
 
Duo 地上の愛と天上の愛
 
(一緒に)我が徳、我が勇気こそが最強なり。
(地上の愛)俗欲は仇なるや?
(天上の愛)肉欲は友たり得るや?
(一緒に)そは我が命果てるまでの救いなり。
 
第2部
 
Sinfonia
 
Recitativo ファリサイ派
 
偉大にして光輝けるご婦人よ、そなたの頬の上では、クピドとともに美神が戯れ踊っている。
他所へ行くが良い。恋人たちを虜にするために。
かくも高潔な場に、その容色はふさわしくないのだ。
 
Aria ファリサイ派
 
いざ去るべし。
望まれし貞操の輝きをば、汝は解し能わじ。
  罪によりて、人を惑わせし者よ、
  如何にして、汝の光を見ることを得べき?
 
Recitativo マグダレーナ
 
我が魂が幾千もの罪によって捕縛されていようと、
そのことで私がどれだけ闇に包まれていようと、
その暗黒から、涙とともに、私は力強い光を見出しましょう。
忍耐強き心は、常に私の味方なのですから。
主よ、あなたの足下にひれ伏すこの女を、死に至る罪ゆえに義なる神の怒りにこそふさわしいこの女を、
どうか見守たまえ。
主よ、悔悛の罪びとを、見守りたまえ。
 
キリスト
 
もしその苦悩が真実のものであるならば、必ずや許しを得るであろう。
そして、そなたは真の悔悛の模範となることであろう。
 
ファリサイ派
 
これはまた、何と不埒なたわごとだ。
マグダレーナ
 
主よ、あなたに我が身のすべてをお捧げします。悔悛と、永遠の忠誠を誓います。
悲しみに暮れる私の眼よ、お前は哀しみ、とくと涙するが良い。
我が魂は、嘆きを以って応えるであろうから。
おお、我が不実にして聾したる耳目よ、若気の至りという罪の、いかに恐ろしいことか。
 
Aria マグダレーナ
 
シタールの音色の艶に幾千の、罪の響ありき。
しかしてそを嘆き悲しむ。
  ゆえにこそ、天のみ神の恵みによりて、
  不信のくびきの毀たれるなり。
 
Recitativo 地上の愛
 
マグダレーナよ、祈ってはならぬ!
 
天上の愛
 
いいえ、祈り続けるのです!
 
ファリサイ派
 
この者が預言者の神々しき光を得ているというなら、なぜ堕落した女に触れるという罪作りなことをするのか?
 
マグダレーナ
 
私をその御許にお寄せくださった神の愛によって、私の心が揺さぶられるとき、
私はまた祈りましょう。波にも砕けぬ堅き岩の心を以って、
私はキリストの輝ける慈愛を乞い求めるのです。
そのお方がこの胸に希望の炎を灯し続けてくださるでしょう。
そのお方こそが、私の心を救い、優しく慰めてくださるのです。
 
Aria マグダレーナ
 
我が穢れし心は涙のうちにこそ滅し、
主のみ後につき従いて、
  神の御国の道をばたどり、
  行くべき途こそ選ばれたるなり。
 
Recitativo 天上の愛
 
おお、天よ、深い慈悲に救われた者のこのような悔悛を、これまで誰が眼にしたであろう。
 
地上の愛
 
我が勝利の希望もこれまでなのか。
 
キリスト
 
高慢なるファリサイ人よ、偽善に満ちたそなたの胸の内は、ついに白日のもとに晒された。
あなた方はこの女を卑しめてはならない。
聖なる愛が彼女の心に芽生え、神の道を歩む足を縛り付けてきた、その枷を解いたのである。
 
Aria キリスト
 
天はさざめき、星は輝けり。
涙落つる魂のいと高きところ、さらにまばゆく煌き瞬かん。  
  心は死の鎖をば毀ち、
  かくして天に昇りたればなり。 
 
Recitativo 天上の愛
 
地上の愛よ、ついに我が勝利の時が来た。
マグダレーナは悔悛し、涙と共に贖い主イエス・キリストのみもとに帰依し、自らの罪を浄め、天国を目指すのだ。
彼女の真摯な嘆きこそ、良き兆しである。
 
地上の愛
 
もし彼女が泣いているのなら、人生の楽しみを思い出すようにと望もう。
過ぎ去った時は、嘆きを哂うには永く、天国に至るには狭い。
人は、彼女が別の道を行くのを見るだろう。
 
天上の愛
 
彼女の悔悛は真実のものだ。
 
地上の愛
 
じき心変わりすることだろう。
 
天上の愛
 
天の恵みは彼女を護る。
 
地上の愛
 
あてになどならぬ。
 
天上の愛
 
勝利は我がものだ。
 
地上の愛
 
我こそ諦めたりはしない。
 
Aria 天上の愛
 
汝の虚しき喜びこそ笑止なり。
ただ天のみぞ勝利したもう。
  我がみ神の勝ち鬨は、
  汝の虚飾を屠るものなり。
 
Recitativo 地上の愛
 
もし私の力が至らぬ時は、黄泉の使者どもが加勢するだろう。
阿鼻叫喚の地獄の深淵、そこにある亡者たちが、我が勇気を証してくれよう。
たった一人の女が、我が栄光の輝きを盗み取れるとでもいうのか?
 
Aria 地上の愛
 
おぞましき恐怖よ、地獄の狂熱よ、
我に力を与えよ!
  毒蛇の瘴気を以って我が狂躁を煽り、掻き立てよ。
 
Recitativo マルタ
 
マグダレーナよ、動揺してはなりません。神のみ後に真っ直ぐに続くのです。
悪の嵐を逃れ、善き徳の港へと至り、悩める者の安らぎの場へと向かうのです。
 
マグダレーナ
 
胸の内に新たな希望が生まれたのを感じます。正しきみ業が私の心のなかで成就されたのを。
法悦に泣く私の涙は、あの方の幸福に満たされています。
 
マルタ
 
マグダレーナよ、行って、その方の名を呼ぶのです。
今日こそ、許しのしるしを見ることになりましょう。
 
Aria マルタ
 
幸いなる涙よ、慎ましやかなる心よ。
  誇りもて、このあわれなる魂をば、
  光輝に飾られし天の高みに導きたまえ。
 
Recitativo マグダレーナ
 
我が神、贖い主イエス・キリストよ。この魂は、謹んであなたの許しを乞い求めます。
 
ファリサイ派
 
まさに唾棄すべきこと。かくも瞬時にして高貴な愛と徳の改心ができるものであろうか。尋常ではないぞ!
キリストに対してなら、かように罪深い女でも慈悲を乞うことが出来るというのか?
いったい誰が、罪を許すというのか?
 
Aria ファリサイ派
 
熟したる果実の茎の曲がりたるを、
正さんとするも畢竟そを毀つのみ。
  かの女の、今は悔悛するに見ゆれども、
  日ならず罪に躓かん。
  その業のいと深きなればなり。
 
Recitativo マグダレーナ
 
イエスよ、私は貞節で、何も恐れるものはありません。
無知に満たされたかつての我が心は、野蛮にして空虚、愚かな迷信に覆われていました。
しかし、あなた様の聖なる光と愛がそれを焼き尽くし、消し去って下さったのです。
あらゆる偽りの影を去らせて下さるよう、み光の導きにお任せしましょう。
 
Aria マグダレーナ
 
我が涙の大海にありて、己が痛苦を過ごすを習う。
イエスよ、我がしるべとなり給え。
  我久しくその足許にへりくだりて、この重荷を置かん。
 
Recitativo キリスト
 
勇気あるその決意、希望ある行いは、無知のままに卑しき世界に仕えてきた汝の心を、
明瞭にそして力強く、その虚しき隠れ蓑から引き離すのだ。
その決心は、汝を悪徳から救い出し、多くのことを成就せしめた。しかし、これはまだ始まりである。
自由へと至る道、罪から逃れる道はまだ終わらぬ。智恵を修めることに励むを喜びとし、
より遥かな高みを目指しなさい。
 
Aria キリスト
 
自らの内なる邪悪に立ち向かい、
そを挫くは心の復活なり。
  鎖より自由になりて、心に翼を得、
  さては神のもとに喜び楽しむべし。
 
Recitativo 天上の愛
 
我が無敵の矢によって、今やマグダレーナは悔い改めることが出来た。
勝利を喜ぼう。
地上の愛は、快楽という甘い毒を塗った矢を放ち、
自らの偽りの勇猛心を示そうと企てたが、全ては虚しく終わったのだ。
 
Aria 天上の愛
 
毒矢が心にもたらすは、
ただ虚しき怒りのみ。
  偉大なる神のみ国の恵みによりて、
  その魔性を暴かば、ただ虚しき後悔のみぞ残る。
 
Recitativo ファリサイ派
 
それらは常に、必滅の神秘の輝きを宿す天空から降ってくる。
その光は魂を照らし、創造主のみもとへと連れてゆく。
マグダレーナほど、この遠き道のりを真理に導かれて辿り、歩きぬいた者があるだろうか。
さらに彼女は、神聖な愛にいざなわれ、
その寛大な慈悲で自らの心を揺さぶったイエス・キリストのおん手に口づけしながら、神が導く場所へと急いでいる。
 
Aria ファリサイ派
 
そは知られざる神秘。
永遠の心を保つなり。
  万人の心に迫りて由々しき痛みを呼び覚まし、
  寛容のみ光、ひとすじを創りたもう。
 
Recitativo 天上の愛
 
天国の者たちよ、魂は我が偉大なる勝利を祝い、太鼓と笛を以って栄光を誉め讃える。
彼女は忠実なる僕となり、マグダレーナこそ、神の勝利の大いなるしるしとなる。
 
Aria 天上の愛
 
いざ来たれ。天の喜びの日にこそ、
薔薇に飾られ、揚々として祝うべし。
  天は善き魂にも増して、
  罪に打ち克ちし心をこそ誉め讃えればなり。
  
Recitativo 地上の愛
 
さもしき星よ、我を見て蔑むお前は、ついには我を押しつぶし、滅ぼし、
葬り去った。
 
Aria 地上の愛
 
げに恐ろしきタルタロスの深淵よ、
汝は祈り、来たりて我を引き倒し、
しかして汝の暗黒の胸の内へと我を押し込めり。
  微かなる光をも、空の彼方、我をば遠く離れ去るなり。
 
Recitativo キリスト
 
いざ行くがよい、マグダレーナよ。
汝はその誠なる悔悛により、苦しみから癒された。
最早や罪びとではない。安らかなれ。
 
マグダレーナ
 
赦しの功徳により、今私は恐怖の影を払いのけることが出来ました。
かつての我が罪が白日のもとに明らかとなり、言い逃れできないものであったにも拘わらず。
みすぼらしく愚かな虚栄よ!
今や、淫らな虚飾から自由となり、そのさまを哀れむことが出来る。
このようにして、人のうわべは偽りの色香と嘘で飾り立てられ、
無垢の美しさが罪に汚されるのであると。
 
Aria マグダレーナ
 
淫靡なる愛欲の虜たる女をば、
虚栄に飾る者、なげかわしき罪をば犯す、
そは何者なるか。
  反逆の天使こそが正しき宝を奪い、
  汝を堕落せる奴隷へと貶めるなり。
 
終わり
 
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